FILM

女性監督カルラ・シモンに聞く、自分について学ぶことの意味

2018/06/25

初めて触れた死が両親との別れだった。6歳の少女フリダが過ごした1993年の夏を綴る映画『悲しみに、こんにちは』は、スペインの新鋭、現在32歳のカルラ・シモン監督の長編デビュー作だ。この物語は、突如慣れ親しんだバルセロナから、田舎カタルーニャに住む叔父・叔母のもとで暮らすことになった、監督自身の経験と記憶がもとになっている。この一人の少女の物語は、かつて少年・少女だった自分の記憶と共鳴し、ベルリン国際映画祭、米アカデミー賞、ゴヤ賞など世界中で鮮烈な印象を残した。日本に来日した彼女に、自分の物語を映画にすること、女性監督として生きることについて聞いた。

「実際に経験したこと、自分が一番知っていることを映画にする」

この映画でご自身の幼少期の物語を描こうと思ったきっかけについて教えてください。

きっかけは、ロンドンで映画の勉強をしたことですね。故郷スペインから離れて、いろんな国の人がいる国際的な学校の中で、自分は周りとどう違うのか、自分の個性をどこで出せるのかを考えることができました。そこで、映画学校の先生から、「デビューするときは、自分が実際に経験したことを題材にしたほうがいい。一番自分が自信があることだし、自分が一番よく知っている分野だから」と学びました。祖父が亡くなった直後に、幼い兄弟が亡くなったおばあちゃんの死体を見るという短編の脚本を書いたんですが、今回死と向き合う子どもという題材をまたぜひ撮りたいなという気持ちになったんです。

そもそも、なぜ映画を勉強しようと思ったんですか?

もともと、映画を撮りたかったわけではないんです。ジャーナリスト、あるいはルポライターになっていろんな国に行って取材をしたかったけれど、高校生のときに映像の授業があって、いろんな映像を見て語り合ううちに、映画は、さまざまな側面からストーリーが撮れるということがわかった。そのときに、映画は完全な芸術だと思ったんです。脚本の段階では文学であり、撮影の段階では写真のようなものでもあり、音楽も入ってくるから音楽でもあって。映画は完全な芸術でありながら、複雑な捉え方ができて、いろんな部分を共有できるなと思ってハマってしまったんですよね(笑)。

制作をするようになってからわかった映画のよさってありますか?

自分のことをすごくわかってくれるスタッフがまわりにいること。素晴らしい撮影監督もいるし、セットもプロが作ってくれて、私はそれをまとめればいいだけなので。ひとつひとつを自分がやるのではなくて、みんなで映画が撮れるというところが映画のすごくいいところだなと思います。映画を撮るのは大変ですし、お金もすごくかかるんです。でも、この映画を撮るにあたって、映画の技術だけではなくて、自分に関してもいろいろ学べたし、周りにいる人間に関しても学べたので、いい経験になりました。

具体的に、どんな学びがありました?

6歳だった私はまだ子どもでしたし、自分のことをいちいち意識していなかったんですよね。でも、この映画のおかげで、子どもの頃になぜあんな態度だったのか、なぜあんなふうな反応をしていたのか、わかるようになった気がします。子どもの心理や養子縁組に関する本もたくさん読みましたし、それを自分の記憶と照らし合わせて、当時の私がどうして泣いたのか、今になってやっとわかったんです。

その理由について、監督は映画では説明されていません。それはあくまで子どもの視点の物語だからなのでしょうか?

この映画は子どもの視線で撮られていますが、登場している子どもたちはあくまでも子ども。遊びたいときには遊ぶし、いろんな感情に走ってしまうこともあります。でも、彼女たちもその都度状況を理解しようとしているんですよね。子どもは子どもなりに考えて理解はするんだけれど、理解してもそれに対してどうすればいいのかがわからない。そういう視点から映画を撮ってみたかったんですよね。

「子どもの面白いところは、自然にごっこ遊びができるということ」

映画で子どもを起用する上で、彼らのどんなところにクリエイティビティを感じますか?

子どもと働くのはいつでも難しいし、挑戦です(笑)。面白いなと思うのは、子どもは誰でも違うキャラクターになりすます、というごっこ遊びをすることができるんですよね。この映画で、何が美しかったったかというと、私は子どもにロールプレイをさせているのに、彼女たちの心理はただ遊んでいるということです。そこで彼女たちが熱中したり、一生懸命になったりしているだけなんです。だから、子どもたちが一番クリエイティブになっていて自然だったのは、ごっこ遊びをしているシーンだと思いますね。

主人公のフリダと従姉妹のアナが、お母さんごっこやレストランの店員さんごっこをしていましたね。

もちろんリハーサルもするんですけど、撮影に入る前にいろんな人がいろんな役を演じるロールプレイのようなことをしたんです。私がフリダという主人公の母役になって、4つの短い台詞を子どもたちに教えて、「逆に私があなたの役になるから、私が言ったことを自分でやってみて」と話す。あの遊びのシーンは、長編にできるくらい、いろんなカットを撮ったんですけど、最終的にその中から一つを選びました(笑)。

「自分が何が欲しいのかがハッキリしているので、強く進んでいくことができる」

この作品が2018年のカンヌ国際映画祭の映画界で活躍する女性をたたえる「ウーマン・イン・モーション」ヤング・タレント・アワードに

映画を撮ってからだいぶ時間が経っていましたし、世界各地を回ってこの作品がもらえる賞は全ていただいたと思っていたので、カンヌから連絡が来たときはすごく驚きました。今年は女性監督にスポットライトが当たっていた年だったので、その中で自分が受賞できたことがすごいことだなと。巨匠アニエス・ヴァルダ監督や素晴らしい女優さんたちと同じ部屋に自分がいる、という経験も美しいものでした。

ゴヤ賞では、新人監督賞も受賞されましたよね。

スペインで最高の賞なのでとても光栄でしたが、何より嬉しかったのは、両親役の俳優が助演男優賞と新人女優賞を受賞したことです。撮影中は、子どもの演技指導を一緒にしてくれたり、ある意味、助監督のような存在の二人でしたから。すごく嬉しかったですね。

これまで女性監督として生きることに、難しさを感じたことはありますか?

女性だからではなく、初めての映画だったから、それなりの難しさはもちろんありました。私は恵まれているのかもしれないけれど、女性だからといって、監督でいることが難しいと感じたことはないんです。企画の段階から出資の面、スタッフを集めることに関しても特に大変ではなかったですし、そもそも女性スタッフが非常に多い現場だったんですよね。ただ、違和感を覚えたことといえば、私が女性というだけじゃなく見た目が若いというのもあって、撮影現場を見に来た人たちに、「誰が監督なの?」という態度を取られたこと。でもそれは、ただのエピソードでしかないですけど。

スペイン全体では、女性監督は増えてきていますか?

最近は、ニュー・ジェネレーションの女性監督がたくさんデビューしています。でも、1年間のうちにスペインで撮られている映画のなかで女性監督が手がけたものは全体の2割にも満たないと思いますし、果たして長期的に監督として継続できる人がどれだけいるのかはまだわからないという現状ではありますよね。

最後に、幼くして両親をエイズで失くし、親戚に育てられた経験から監督が学んだことを聞かせていただけますか?

子どもの頃って、とにかく環境に馴染むのに必死なんですよね。そもそも、どの子にも環境に馴染む力はあるでしょうけど、私の場合は、いきなり都会から田舎で暮らすことになって、周りの人間も100%変わったので、人一倍、環境に馴染む能力が高いんじゃないかと思いますね。実際、どこに行ってもすぐ馴染めます(笑)。あとは、やっぱり、強くなりましたよね。生き残らないとという意識が強いというのか、どんな状況でも頭の中で自分が何が欲しいのかがハッキリしているので、そのために強く進んでいくことができる。映画監督って強くないとできないので、幼少期の経験は監督になるためにすごく役立っているなと思います。

Profile

カルラ・シモン 
1986年、バルセロナ生まれ。 バルセロナ自治大学オーディオビジュアル・コミュニケーション科を卒業、カリフォルニア大学で脚本と監督演出を学び、2011年、ロンドン・フィルム学校に入る。在学中に制作した短編のドキュメンタリー『BORN POSITIVE』と劇映画『LIPSTICK』は、多くの国際映画祭で上映された。2013年、シモン監督は、子供や十代の若者たちに映画を教えるため、“Young For Film!”をつくる。現在はバルセロナにて、次回作の準備をしながら、小・中学生を対象とした映画制作ワークショップ“Cinema en Curs”で映画作りを教えている。彼女の長編デビュー作『悲しみに、こんにちは』は、2017年のベルリン国際映画祭でプレミア上映され、長編初監督作品賞など2部門、2018年のゴヤ賞で新人監督賞など3部門を受賞。7月21日より、東京・渋谷のユーロスペースほか全国で順次公開。

『悲しみに、こんにちは』

7月21日公開、ユーロスペースほか全国順次公開

歳にして母親をある病気で失った主人公のフリダ。叔母夫婦の元で暮らすことになり、バルセロナから慣れない田舎へ引っ越しをする。若い叔母と叔父、そして幼いいとこのアナは、フリダを暖かく迎え入れようとするが、家族として馴染むには時間がかかり……。
カルラ・シモン監督の幼少期の経験をもとに、幼い少女の特別なひと夏を描いた本作。カタルーニャの美しい風景を舞台に、子供ならではの心情や行動を描写した。誰もが持っている幼い頃の瑞々しい記憶や物語とリンクさせた共感できる映画となっている。

脚本・監督:カルラ・シモン
出演:ライラ・アルティガス、パウラ・ロブレス、ブルーナ・クッシ、ダビド・ヴェルダグエル、フェルミ・レイザック

公式HP

Photo&Videographer:Higa Hisato David Liao Writer:Tomoko Ogawa

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