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私が“こじらせ女”を卒業するまで/イラストレーターあらいぴろよさんが伝えたいこと

2019/10/16

幼少期に父親から暴力をふるわれ、人格否定もされて育った、イラストレーターのあらいぴろよさん。最新コミックエッセイ『虐待父がようやく死んだ』(竹書房)で壮絶な半生を描いた彼女は、抑圧された幼少期の影響で、男性にちやほやされることで自尊心を満たす“隠れビッチ” キャラで過ごしていた時期があるそう。
“ビッチ=イヤな女”と思われるけれど、異性から好かれやすい女性像を演じてしまった経験がある人は多いはず。偽りの自分を演じ、トラウマとともに自分をこじらせていたあらいさんに、本当の“自分らしさ”を手に入れるまでを伺いました。

モテることが自分の価値? 必要だったこじらせ時代

あらいぴろよさんが自分らしさを手に入れるまでを綴った自伝コミックエッセイ。 左から 「美大とかに行けたら、もっといい人生だったのかな。」(光文社)、「“隠れビッチ”やってました。」(光文社)、「虐待父がようやく死んだ」(竹書房)

「親のことは、一気に乗り越えたのではなく、少しずつ前に進んでいったような感じです。そのなかで “隠れビッチ”キャラをしていたのは実家を出てからの3年くらいでした」

“隠れビッチ”とは、清楚な装いをしながらも女のスキを見せて、男心を翻弄する偽りの姿。あらいさんの場合、体は許さず、男性から告白される数の多さで自分の自己肯定感を満足させていたそう。


「“隠れビッチ”やってました。」(光文社)より(C)あらいぴろよ 

「ちやほやされるためだけに、したたかに戦略を立て、マーケティングもしていました。子供の頃から親によってぽっかりと心に穴が開けられていたせいか、無意識にそれを埋めるように、ひたすら狙って行動をしていました。そこには全く“自分”というものがない状態でしたが、ちやほやされて心地よくなることに価値を見出してました」

とにかく自分の自信をチャージすることだけを考えていた、と話すあらいさん。
「隠れビッチ時代によく、20年後の自分を想像していたのですが、出てくるイメージは空っぽで誰にも見向きもされない独りぼっちの寂しいオバさんでした。自分も他人も偽り続けていては、何にもならないと気付いてはいましたが、どうやったら抜け出せるのかわからなかったんです。自分というものを持たず、ひたすらちやほやされる快感に流されていました」

人を立て直してくれるのは、やっぱり人だった

そんななか、自分が裏切ってきた「人」、また自分を裏切る存在だったはずの「人」に、人生を立て直してもらうタイミングが訪れる。

「ものすごく月並みですが、好きな人ができたんです」

「彼は、見た目も言動もだいぶチャラいんだけれど、自分が何をしたいのかが見えている人でした。軸をぶらさず、夢に向かって努力を重ねる姿は私にとって、とても眩しい存在。そんな彼との将来を想像してみたとき、こじらせていた自分は彼には釣り合わない人間だなと感じたんです。それで、私も彼の隣で誇らしくいられるように、本当の自分を生きようと心に決めました」
そこから専門学校に入学し、デザインの会社に就職。どうにか夢だったイラストレーターとして独立……と、社会で人と関わるその過程は、まさに“自分を生きること”の連続。

「人と関わり、お互い譲れないもの擦り合わせていくうちに、“自分を生きる”ということは本質を知り、それを手に入れるために行動することだと感じました。
行動するうちに自信もついてきて、望むように生きられるようになり、ついに親に支配されない生き方を踏み出せるようになったんです」

結局、美容師を目指していた彼とは別れてしまうも、後に結婚し夫となる男性との巡り会いもあらいさんを立て直したことのひとつ。ご主人はもともと同僚兼友人で、あらいさんが「自分の弱さから逃げずに戦うのであれば、信じる」と受け入れてくれた人。なぜ、そんな相手と巡り会えたのでしょうか。

「正直こればっかりは、運もあったんじゃないかと思います。夫は私のことを“感情表現が豊か”と言ってくれるのですが、冷静に考えると私はただの情緒不安定ですからね。こんなマイナスなことでもプラスに変換してくれる人と出会えたのは、ラッキーとしか言えないわけです。
ただ、彼はもともと友人だったので、私がどん底から這い上がろうとする姿を見てくれていました。もしも私が自分の弱さから逃げ続けていたら、彼は私のことを見向きもしなかったと思います」

他人に左右されない自分の基準を持とう

こじれた内面や自分の弱さを理解するのにかかった時間は約10年。
親や環境によって刷り込まれた“呪い”と向き合っていくなかで、自分にとっての幸せに気づかせてくれるものは何なのかを尋ねた。

「私の場合、守ってくれる存在であるはずの親から虐待されていたので、“生まれてきてよかったのか?”という疑問は、子供のころから常に付きまとっていました。虐待を受け、拒絶されたことで、特別なことをしないと私の存在意義はない、と思い込んでしまったんです。
でも “特別だから認めてもらえる”という考えは、私の誤解で、間違った刷り込みだったと今ではハッキリと言えます。本当に大切なことは、自分は何をしたら幸せなのかを見つけて、他人の価値基準に左右されないことです」

自問自答が幸せを掴むコツ

最後に、ずっと愛情を求め続けてきたあらいさんに幸せを掴むコツを教えてもらった。

「自分の本当の“好み”や“人生における最優先事項”を自問自答し、見つけることですね」
そのためには、たくさんの人と出会うことが大切だと続けた。

「たくさんの人とデートしていくうちに、“私が欲しいのは財力じゃないな”、 “車でもないな”、“自慢できる相手でなくてもいい”と、むやみに抱えていた期待をそぎ落とすことができました。また、自分の身の丈を知って、“私(なんぞ)を信じてくれるなら、他にはなにもいらない”と思えるようにもなったんです。私の“好み”は 信じてくれる人。そうして出会った夫は、何も持っていないし何者でもない人でしたが、私は今確かに幸せです」

そして、自分の人生の最優先事項をひとつ、見つけることも大切だという。

「たったひとつでも、大切にすることを手に入れ、守ることは、案外大変で、覚悟も必要。しかし自分が選んだものなら、誇りが持てるようになると思います。それは自分を大事にすることに繋がり、幸せへと導いてくれるんです。
私もまだまだ思う事があります。幸せに生き抜くために、これからも欲深く抗っていきたいと思います」

Profile:あらいぴろよさん

1984年生まれ。ゆるくかわいいイラストで雑誌や書籍、Web・広告など幅広く活躍するイラストレーター、マンガ家で一児の母。2016年に自らの体験を漫画にした『"隠れビッチ"やってました。』(光文社)を発表し、話題に。同作は、佐久間由衣、村上虹郎出演で映画化され、2019年冬に全国公開予定。その後、『美大とかに行けたら、もっといい人生だったのかな。』(光文社)や、自らの育児経験を綴った『ワタシはぜったい虐待しませんからね! ― 子どもを産んだ今だから宣誓!』(主婦の友社)を発表。最新刊は『虐待父がようやく死んだ』(竹書房)。

『虐待父がようやく死んだ』(竹書房)
暴力・性的虐待・面前DV・人格否定……父親から虐待を受け育った作者が描くコミックエッセイ。虐待する親の元に生まれ、耐えるしか道がなかった絶望感と心境を描き、話題に。

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Photo:T.Maenaka Text:Aki Maekawa

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